ブックレビューです。
またもや黒木亮作品。
もはや、中毒気味かもしれません。ただ、今回のは巨大投資銀行以来の(小説としては)良作だったのではと思います。
主人公は東西銀行の但馬。(東西銀行は東京銀行を模していると思われる。)
ロンドン支社にてトルコ担当として、ソブリン債を主に扱っている。
時代は1990年前後。まだまだ、トルコが発展途上の時期で、さらに湾岸戦争も場面に含まれている。
これまでの黒木作品に見られがちだったのだが、異なるストーリーが展開していて、結局最後まで交差することがないという展開には今回はならなかった。
直接の交差が起こらないものもあるが、最終的に府に落ちる感じに仕上がっている。
国際協調融資団(シ・ローン)の組成から、国家の資金調達、米国の格付機関や財務省、IMFなどが登場し、国際金融というムズカしい話になるが、素人の私でも分かりやすく書かれている。
また、トルコの情景描写が多く含まれており、旅行した気分にもなれる。(と同時に、トルコに行きたくなった)
印象に残った点を幾つか、感想を含めつつ書きたい。
まずは、主人公の但馬への共感があった。同期入行の中でも飛び抜けて出来る行員ではなく、将来を有望されている同期の背中を追うように、または離されないようしがみついていくため、社内評価を気にかけている但馬と、国家のファイナンスに関わるビジネスをしているという責任感で必至にディールを成立させようとする但馬という、二面性に共感を感じた。
自らの信念と、それに待ったをかける自分の別の欲望。
この2の間で葛藤するのは、サラリーマンには良くあるのではないか。
それでも信念を選び取るところに、大きな勇気を受けた。
更に、トルコの財務貿易庁のエンヴェル女史は主要人物の一人。
名だたる投資銀行を相手に、交渉を進めながら、国家のファイナンスを支える。
彼女と但馬ら銀行方の駆け引きは、読んでいて、非常に臨場感があった。(ただ、もっと会話に量があっても良いのかなと思うことろもある。。。。)
マンデートを獲得する側の物語は、巨大投資銀行で読んだが、こちらは与える側の視点も与えてくれた。
特に、市場における国家の信用の意味するところを垣間見ることができた。
一度の失敗でも、それが後の調達に与える影響を考えること。また、シ・ローンの組成に対する銀行の実力を見極めながら、フィーの交渉を行うというのは、国家といえども調達に(特にトルコのような新興国は)対して大きな労苦を費やしていることを本書を通して知った。
時を見極める力、そしてプランをエクスキューズションする力、その2つが無ければ、どれだけ優れたビジョンを持っていても、何も起こらず終わるのではないだろうか。
主人公・但馬の不器用ながらも、信を重んじ、整然と理論で物事を進める姿に、前述の共感だけでなく、個人的な憧れを感じる。
徹底的に、自分のやり方で、組織の不条理さに立ち向かうこと、それを私できたらと思う。組織内で器用な人はそれで良いと思う。ただ、不器用を自覚している私としては、武器は論理にしたい(勝手にではあるが)と強く思う。
個人として、これまでで一番鼓舞された黒木作品であった。
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